足関節の骨折は整形外科医が得意!

2019年8月30日

論文要旨

Lower Complication Rate Following Ankle Fracture Fixation by Orthopaedic Surgeons Versus Podiatrists
J Am Acad Orthop Surg 2019;27: 607-612

背景:整形外科医と足病医の治療分野が重なってきているが、足関節骨折に対する両者の手術成績を比較した研究はない

方法:保険のデータベースを使用して、2007年から2015年の間に実施された11,745件の足関節骨折固定術の結果を後方視的に評価した。

結果:11,115人が整形外科医に治療され、630人が足病医に治療されていた。2007年から2015年にかけて足病医に治療された患者数は増加し、整形外科医に治療された患者数は減少していた。足病医に治療された患者の偽関節(骨がつかなかった)率は有意に高かった(7.6% vs 4.6%)。重傷なほど差は大きかった。両群間の患者背景に差はなかった。

考察:整形外科医の骨折手術は足病医に比べて偽関節率が低かった。この違いの原因は多因子によるだろうが、より詳細な検討が必要であることは言える。患者が治療者を選ぶにあたって重要な情報である。また政策決定者にとっても有用だ。

足病医(Podiatrist)とは

いわゆる医師免許とは別物の足病医のライセンスのもと診療しています。整形外科医は医師免許を持っており、その上で整形外科を専門とします。日本の制度でわかりやすく言えば、医師と歯科医師の関係に似ているでしょう。
参考:https://www.aacpm.org/becoming-a-podiatric-physician/

感想

COI

私は整形外科医です。整形外科医の肩を持っている可能性があります。むしろ持っていると考えた方が自然です。

AAOS(米国整形外科学会)の危機感

our find- ings have important implications in patients who must choose a surgeon to surgically manage their ankle fracture, as well as policymakers who determine the scope of practice.

*太字は管理人

足病医との手術成績の比較の論文をAAOSの機関紙に掲載したことが印象的でした。特に上記引用の太字部分。政策決定者に向けてのメッセージだよと明示しているあたりにAAOSの危機感を感じます。

結果に紹介したように足関節骨折が足病医に治療されることが増えているそうです。現状では5%強の割合ではありますがトレンドとして整形外科医の領域と考えていた分野に足病医が入ってきているとAAOSが考えて不思議ではありません。

なぜ足病医が領域を拡大しているのでしょうか?管理人の想像ですが、足病医と聞くと整形外科医よりも足の骨折は上手に治療してくれそうな印象があるのかもしれません。もしかしたら足病医の方が営業努力が上手なのかもしれません。治療成績に差があることとともに、こちらの理由も不明です。

何れにせよ、政策決定者向けにメッセージを機関誌に掲載したAAOSはPodiatritによる骨折治療をやめさせようとしています。患者の利益を守る方法はいくつかあると思いますが、手を差し伸べるより叩き潰す対応に因縁の深さを感じます。

整形外科と境界領域

整形外科はマイナー科の一つでありながら扱う分野は実に多岐に渡ります。整形外科関連学会は50を超えています(確か)。そこまでMECEでもないですが整形外科は縦糸と横糸で分類されます。縦糸は部位、つまり脊椎・肩関節・手関節・股関節・膝関節・足関節。横糸は疾患分野、つまり外傷、変性疾患、代謝性疾患、自己免疫性疾患、腫瘍、スポーツ、リハビリなどが上げられます。この縦糸と横糸が織りなす布で、いつか誰かを支えうるかもしれないと考えながら、運動器疾患治療を行なっているのが整形外科医なのです。

しかし分野が広いだけあって境界領域も数多くあります。リウマチは膠原病内科と、腫瘍は腫瘍内科と、脊椎疾患は脳外科と、手の外科は形成外科と、リハビリはそのものズバリなリハビリ科と診療領域が重なっています。そこに足の外科と足病医の関係があることに気づかされたのが本論文での発見でした。

ちなみに整形外科は診療領域だけではなく名称が重なっている分野まであります。それは美容整形外科です。キャバクラで整形外科と名乗ったら、二重にしてちょうだいと頼まれて心を痛めた整形外科医も少なくはないでしょう。ボトックスくらいなら打てないこともないかしら。。。

境界領域における整形外科

整形外科医の多くは誇りを持って仕事をしています。しかし医療の進歩に伴い、治療主体が整形外科から他科に移っていくこともあり、そこに寂しさと哀しさを感じることも事実としてあります。外科領域では負けんぞと気概を持ってやっていることでしょう。

関節リウマチと整形外科

関節リウマチの治療は昔は主に整形外科医が担っていました(と伝え聞いております)。患者さんの話を傾聴し対症療法を施していた時代です。しかし過去20年弱でMTXが始まりバイオが始まり、寛解さらにはドラッグフリーが目指せるようになってきました。結果として手術をやりたい盛りの若手整形外科医が関節リウマチ診療に向かいにくくなっています。

関節リウマチの手術治療を担う整形外科医が関節リウマチ診療を担う意義は無くならないと管理人は考えていますが、内科医から「骨医がリウマチ診療をしていい時代ではなくなった」と陰口を言われて心を痛めてる整形リウマチ医の哀愁を聞いたことがあります。整形リウマチ医の育成が整形外科の課題の一つとなっています。

骨軟部腫瘍と整形外科

骨肉腫などに代表される骨軟部腫瘍の治療もやはり整形外科医が担ってきました。良性腫瘍は治療が必要な場合の多くは手術療法が第一選択であり境界領域とは言いにくいでしょう。また悪性骨軟部腫瘍は治療法が少なく使える抗がん剤が限られており整形外科医が化学療法も実施してきました。

しかし最近になって新薬が相次いで認可されてきたことで、この分野もにわかに活気付いてきています。使える薬が増えてきて内科医の発言力が強くなっていくのはいつか見た光景です。腫瘍内科医の発言力が増えてくることにATフィールドが侵される感覚を感じている腫瘍整形外科医もいることでしょう。

骨軟部腫瘍診療は競争ではなく協業に舵を切りました。これまで骨軟部腫瘍治療の学術活動は、日本整形外科学会の一部門である骨軟部腫瘍学術集会が牽引してきていました。しかし協業の必要性が高まった現在の医療では整形外科としてだけでは骨軟部腫瘍診療を前進できないと、日本サルコーマ治療研究学会が立ち上がっています。今後の展開に期待します。

外科領域における重複

関節リウマチと骨軟部腫瘍の領域においては内科的治療分野の重複のため協業が進みます。これが外科領域での重複となると完全な競争相手です。私自身の勝手な印象では、誇り高き脊椎外科医は脊椎手術を行う脳外科医を好みません。繊細な手の外科医は形成外科医とも仲良しです。

とはいっても整形外科内でも内ゲバが盛んです。人工関節学会など演者そっちのけで共同演者のボス通しが激しい剣幕でお互いの主張をぶつけ合っています。脊椎外科なんて治療法の選択肢がありすぎて、何が何だかわからないレベルです。

そんな激しい外科領域に足病医が参戦していたということが驚きでした。

日本における足病医

日本に足病医はいません。歯科医の育成システムはあっても足病医の育成システムがないからです(日本では歯科医は歯学部に、医科医?は医学部に通います)。しかし足に対する注目の高まりから足病医を育てようと医科の中から動きが始まった記事が出ていました。

「足の後進国」から脱し、 100歳まで歩ける足を

整形外科の一分野として足の外科という分野があります。足の外科手術を専門としており、外傷や外反母趾をはじめ、足関節の変性疾患や、果ては麻痺性疾患で足背で接地するような変形足の矯正手術を行なっています。足の外科関係者からすると「足の後進国」と言われるのには抵抗があるでしょう。発信力で完敗です。

米国に足病医と日本で求められている足病医には背景に大きな違いがあります。米国にはすでにシステムとして足病医がいます。日本にはシステムとしての足病医はいません。しかし、整形外科ひいては足の外科が扱ってこなかったニーズがあるため足病医が求められているようです。いわば足の内科でしょう。

日本の足病医に求められているのは、今のところ糖尿病性潰瘍や虚血肢の治療のようです。確かにこれは整形外科医としては、なかなか太刀打ちができないところでした。足の病気ということでコンサルトを受けても、全身疾患の合併症であり、心不全に怯えながらPGE製剤で粘るくらいしか未熟者の私にはできませんでした。そして最終的に下肢切断。

糖尿病新規患者数は減少に転じているという噂も聞きますが、総患者数は増加しています。糖尿病の合併症は、「し・め・じ」と国家試験で覚えたような記憶がありますが、足病変に対するニーズは間違いなくあります。今まで整形外科では応えられなかったニーズを足病医が満たしてくれることを期待します。

まとめ

日本の足病医は米国でのそれと背景が異なるため、日本整形外科学会から今のところ目をつけられることはないでしょう。しかし足病医が普及して、下肢切断から外科領域に参入し、最終的に骨折治療まで手がけるようになる可能性が無いとも言えません。その観点からは今回の論文は整形外科、足の外科の専門性のPRを行うことが患者利益につながることが示唆された論文と手前味噌に読めます。

一整形外科医としては、ニーズに応えられなかったことを真摯に受け止め、いわゆる足病に対する知識のアップデートを怠らないように注意していきたいと思います。

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