整形外科とAI

2017年9月12日

AIが病理診断 専門医不足カバー(2017/3/21 毎日新聞)

AI導入が何かと流行だ。一流のオールラウンダーが世の中にいるのは否定しないが、一流は一流の仕事をしていれば良く、医療を良くするためには底上げが必要と考えている。その底上げに効いてくるのがAIだろう。いわゆるAIとは違うだろうが、心電図の評価が良い例だと思う。恥ずかしながら私は自信を持って心電図は読めない。私以外も機械読みを参考にしている医者は少なくないのではなかろうか?機械がsuggestしてくれることは日常診療の底上げに間違いなく繋がる。

引用の記事は病理診断でのAI活用の提言だ。病理医不足は忘れられた医師不足とも称されており、実は問題となっている。病院唯一の病理医として勤務しているとダブルチェックもなくつい漏れが出ることもあるだろう。一般的な消化管粘膜の生検組織の評価ですら体調・集中力の限界等でうっかり見逃すこともあるだろう。そこにAIのsuggestionがあれば、どれだけ心身ストレスが軽減されるか想像に難くない。さらには病理診断も実は専門臓器があったりするらしい。見慣れない臓器の評価は、おそらく妥当な評価だろうが誰かに同意して欲しいという瞬間が必ずあるはずだ。そこでもAIがsuggestionしてくれれば心強いこと間違いない。

慢性疾患の管理においてもAIは心強い。いまはガイドライン全盛の時代だ。実に様々な疾患、病態に対してガイドラインが作成されている。自分の専門分野については概ねガイドラインを把握しているつもりではいるが、例えば整形外科医の私が高血圧なり糖尿病のガイドラインを把握しているかというと恥ずかしながら把握していない。そこにAIのsuggestionがあれば、当座の対応を行うにあたって心強い。専門分化し、DPC化した現代の病院内に置いて他科受診のハードルは一般に思われているより随分と高い。AIのsuggestionの妥当性を判断すればよいとなれば診療は安定する。まさに底上げとなるだろう。

ようやく本題の整形外科とAIについてだ。外科医の仕事はAIなんぞに脅かされることはないだろうと思っていたが、よくよく考えると随分助けてもらえるのではないかと思うようになってきた。それは周術期管理の局面だ。きっと私だけではないと思うが、整形外科医は周術期管理をあまり得意としていないと思われる。なにかプチ異常があったときに内科コンサルトをかけるほどではないが、いやいやどうだろうという場面が日常診療ではしばしば経験する。そこでAIがsuggestionを与えてくれるのであれば皆こぞって飛びつくだろう。

整形外科医が周術期管理が駄目らしいというのは残念なことにデータでもでている。2015年に天下のLANCET様で、大腿骨近位部骨折の患者を老年医病棟と一般整形病棟にランダムに割り付けたら、老年医病棟入院患者の方が、受傷4ヶ月時点での歩行能力、ADL、QOLが良いという報告が出ている。内心そりゃそうだろうねとは思うものの、老年内科と整形外科が密なコミュニケーションがとれている施設はどれだけあるのだろうか?内科の先生からすれば骨折患者は整形外科が診療担当でしょう?って感じだと思う。大腿骨近位部骨折の死亡率が1年で2割にせまろうかということをご存知の先生も少数派だろう。ともに診療にあたれるのがベストだろうが、主治医たる整形外科医がAIの助けを借りた周術期管理を提供することは次善の策として素晴らしいと考える。

AIの話をすると、どうしても仕事を奪われる、なくなるという心配が出てくるが私は杞憂と考える。冒頭の記事のように病理診断医や放射線読影医の先生の仕事をうばっていくのではという心配があるのは理解できる。しかしあくまでAIは技術だ。うまく人の仕事は残るだろうと思っている。

例えば旅行代理店。旅行代理店に何かを頼みに行った時に、交通手段についてyahoo路線を利用している画面が見えたことがある。便利だもんね。それが一番かも知れない。ただ旅行代理店の仕事はそれだけではないから成り立っているのだろう。確かにyahoo路線で調べてOKとなるひともいるだろうが、やはりプロにお願いしたいと考える人もいるはずだ。

他の例としては生命保険。ネットで十分な情報提供なり比較サイトがある中で対面販売の保険の窓口のような業態が成り立っている。むしろ増えた?と感じる。旅行はともかく保険のような高い買い物はプロに診てもらいたいと思う人も多いだろう。そしていわんや医療をやである。余談だが私は自分の実情を鑑みて生命保険は不要と判断して加入していない。

AIはきっと商売敵ではなく欠かせないツールになるだろう。必死に教科書を開いていた時代から、タブレットなりiphoneでその場でuptodateを参照できる時代だ。新しいツールを手に入れて医療が変化して行くのは間違いないが、ツールが新しくなったからといって仕事が亡くなると考えるのは時期尚早。むしろ医療はより専門特化したexcitingな仕事になっていくに違いない。

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