重度認知症で施設で寝たきりの高齢者の大腿骨頸部骨折。手術侵襲を加えることで却って健康を害していないか悩みますよね。手術しなければ合併症はなかったに違いない、もう少し長生きできたかもしれないなど悩むこともあるでしょう。そんな疑問に当座の答えをくれます。
Association of Clinical Outcomes With Surgical Repair of Hip Fracture vs Nonsurgical Management in Nursing Home Residents With Advanced Dementia. JAMA Intern Med. 2018;178(6):774-780.
*非整形外科医の方へ:大腿骨頸部骨折は基本的に手術治療を行います。
目的
施設入所の重度認知症患者に発生した大腿骨頸部骨折の手術適応は悩ましい問題だ。生存率も含めたアウトカムを比較した。
方法
- a retrospective cohort study
- 3,083 patients
- Medicare claims data linked with Minimum Data Set
- 2008年1月〜2013年12月
6ヶ月生存していた患者については、疼痛、抗精神薬、身体拘束状況、褥瘡、歩行状態を比較した。
結果
手術した方が生存率が明らかに高い!
全体 | 手術群 | 非手術群 | |
N | 3083 | 2615 | 468 |
6ヶ月生存 | 65.4 % | 68.7 % | 46.5 % |
12ヶ月生存 | 54.4 % | 57.6 % | 36.7 % |
寝たきりか否かでMortalityのハザード比をみてみるとやっぱり歩ける人の方が手術効果はたかそう。でも寝たきりの人に手術をしても生存に対して遜色ない効果あり。
Overall | 歩けるよ | 寝たきり | |
ハザード比 | 0.55 | 0.50 | 0.57 |
95%CI | 0.49-0.61 | 0.36-0.70 | 0.50-0.65 |
IPTW法を用いて(患者背景をマッチングさせて)、両群を比較してみると手術群の方が痛みと褥瘡が少なかった。手術群で身体拘束が多いのはそれだけ元気ってこと?!
Outcome | 手術群 | 非手術群 | IPTW model |
痛み | 29.0 % | 30.9 % | 0.78 (0.61-0.99) |
抗精神薬 | 29.5 % | 20.4 % | 1.02 (0.76-1.37) |
身体拘束 | 13.0 % | 11.1 % | 1.83 (1.21-2.76) |
褥瘡 | 11.2 % | 19.0 % | 0.64 (0.47-0.86) |
結論
手術群の方が生存率が高かった。個々の患者のケアのゴールを考慮して治療方針を決めるべし。痛みなどのイベントは両群でしばしば認められる。ケアの質を高める必要がある。
感想
特に寝たきりに人にでは生命予後に差がないのではないかと考えていたがそうではなかった。とにかく長生きを達成させるためにはやはり手術が勧められる。
とはいっても、手術したら1年生存率が57.6%、手術しなかったら36.7%というのは悩ましい。手術しても約半数は死亡してしまうのねと思うと、必ずしも手術は絶対適応ではないのかもしれない。
また考察でも触れてあったように治療の目的は必ずしも生存期間の延長ではないことに注意が必要だ。先行研究では、なにがなんでも長生き希望の意思表示をしているひとは7%だったと紹介してある。痛み、身体拘束、褥瘡などはケアの工夫で改善する余地があるかもしれない。
センシティブな問題である費用対効果については本論で触れられていない。再び歩く見込みの乏しい寝たきりの患者に対してインプラント代だけで50万円以上する人工骨頭を使うべきなのか? 安いインプラントでも目標(疼痛の緩和など)は達成できるのではないか? 検討が必要だろう。