医師賠償責任保険。うっかり先月きれてましたわ。
型 | 1事故につき | 期間中 | 自己負担額 | 年間保険料 |
200型 | 2億円 | 6億円 | なし | 51,570円 |
100型 | 1億円 | 3億円 | なし | 40,660円 |
70型 | 7,000万円 | 2.1億円 | なし | 37,020円 |
50型 | 5,000万円 | 1.5億円 | なし | 34,580円 |
30型 | 3,000万円 | 9,000万円 | なし | 31,310円 |
保険投入50万円也
私が医師として働き始めたのは「医療崩壊―「立ち去り型サボタージュ」とは何か」が話題になった頃だ。おまけに医療崩壊が直撃した田舎の総合病院で研修を始めちゃったもので、如何に身を守るかについても年齢の近い先輩から良く話を聞かされた。よくわからないから訴訟は恐ろしいもので、高いとは思うものの医師1年目から100型に加入した。真面目に毎年納めていたのでかれこれ50万円近く保険料を納めたことになる。
当初は100型までしかなかったが、途中から200型が案内され始めたことを覚えている。賠償額が1億円を越える事例がでており1億円以上の保証をもとめるニーズに応えます。最近は病院ではなく医師個人を訴えるケースが出てきています。といった有り難い忠言とともに200型が案内された。いまでも一押しは200型だ。不安を煽られ一万円の差だしと思ってついつい200型を選びたくなる気持ちもあったが、ぐっと我慢して今に至る。
看護職は?
保険が切れたことに気付いて提供する医療が変わったかというとそんなことはない。いつも誠心誠意と言えば格好良いがスタンダードプリコーションでもある。そんななか病棟で印象に残る一言をかけられた。「私たちは先生と違って保険で守られていないんです。そんな危ないことできません!!」
なんか良くわからないが骨折後に貧血というか汎血球減少が判明しちゃった患者さんがいた。とりあえず輸血するかということで手配をしていたら検査部から電話があった。なんでもこの人の血液は慣例凝集?とかするらしく加温しながらの輸血が必要とのこと。あらそう?ほんじゃまあ加温で輸血してねと指示出してたら病棟Nsから言われた。「病棟では出来ません」 ・・・はい?
加温器と言っても特別なもんではない。点滴のチューブがくるくるっとまいてる専用のチューブを40℃前後に加温されたお水に沈めて加温して点滴するもの。「病棟では出来ません」というのは、A:規則に定められている、B:やったことがない、どっちよ?病棟で師長含む看護師数名に取り囲まれつつ確認する。当然そんな規則はなくBとのこと。
「わかりました。ただ先生がセッティングして輸血中もずっとついていてください。」・・・え?私?手術の助手に行かないといけないんですけど。慌てて代理を立てる。加温輸血用品一式を取りに行く。内心に沸き上がる感情を抑え、にこやかに準備をしつつ病棟Nsに手伝いを頼むと言われたのが「私たちは先生と違って保険で守られていないんです。そんな危ないことできません!!」
私もいま無保険者だ!!と言いたいところだったが、それよりも看護師って保険ないの?と疑問がわいた。んで調べてみるとあるじゃない。しかも格安じゃないか、この野郎。
保証内容をみてみると概ね50型に相当する。
職業差別だ!
きっと医師と看護師のリスクをアクチュアリが計算するとこんな所に落ち着いて金融庁も認可しているのだろう。しかしこれは一種の職業差別ではなかろうか。医療という仕事を全うするにあたって残念だが事故と無縁でいられる保証はない。規範型法律家の無茶ぶり裁判に巻込まれて人生壊される可能性に備えるのは医療職としての必要悪な危機管理の一つだ。しかし10倍以上の差があるのは、どうにも納得がいかない。
医師の賠償責任保険加入率はいかほどだろう?ほぼ全員が加入しているのではなかろうか?つまり職務遂行にあたって必須と考えられているのが医師賠償責任保険だ。にもかかわらず同じ医療職の職種間で大きな差がついている。慢性疾患がある患者(ハイリスク)は健康保険(国民皆保険で必須)の掛け金もあげたると言われているような感覚を覚える。医者という仕事を行うのは事故率の高いスポーツカーを乗り回すのとは意味が違うはずだ。
真っ当に仕事をしていても訴えられる可能性に備える必要があること自体が不自然である。とは言っても現実問題として訴えられるから対策が必要だ。無過失補償制度が導入されれば、こういう格差も是正されるのではないかと期待する。とりあえず慌てて保険会社に連絡して中途加入の手続きをしました。6月になって保険が再開してよかったよかった。
紹介エピソードは架空の設定です。