うっかり放置した息子の肘内障を慌てて整復した話

2018年2月28日

整形外科専門医:息子の肘内障を見落とす

息子、コケる

学校に息子1を迎えにいくと様子がおかしい。うかない顔をして手が痛いと言っている。いつもだるそうに自分で持ってくる荷物も先生が持ってきた。あまり見ない顔をしている。これはただ事ではない。

荷物を床にほっぽり出して、すぐ診察に入る。左腕を痛がってあまり動かしたがらない。長袖をめくり上げると、心なしか前腕が腫れて曲がって見える。まじか?若木骨折?よりによって外国で。。。

話を聞く。どうやら昼過ぎに前方にばたんと転んで両手をついたらしい。その直後から痛くなったそうだ。先生に言ってアイスで冷やしてたと言っている。うまく言葉で伝えられなくて辛かったろうにと泣けてくる。

詳しく診察すると、どうも前腕の手首近くを押した時が一番痛がる。指の運動でも痛みが出るようだ。また手のひらを上にさせようとしても痛いと言って嫌がる。今のところ皮下出血は出てきていない。派手な外傷ではなかろうが若木骨折の心配は払拭できず。

父、焦る

こんな日に限って妻は仕事で帰りが遅い。病院に連れていくか悩みながら、息子1を車に乗せて息子2のお迎えに保育園に移動する。信号待ちの間に妻に連絡を試みるも不通。テキストメッセージを送っておく。

保育園の中まで連れてきた息子1の様子はやはりおかしい。いい子すぎる。全く悪ふざけすることなく実に良いお兄ちゃんとして、ふざける息子2をフォローしている。聞き分けも良すぎる。おかしい。

これは救急外来に連れていくべきか。息子sをチャイルドシートに乗せた後、仕事仲間の整形スタッフに電話をするも不通だ。状況を伝えて何処に連れていくべきか教えて欲しいとテキストを送信しておく。息子2は動かない車に退屈し始めて暴れる寸前だ。

さあ車を出発させようというタイミングで妻より電話がある。手短に「僕が心配になるレベルだ」と状況を伝え、息子2のこともあるのでまずは家で妻と合流することにして電話を切る。息子2は退屈のあまり不思議な言葉?を叫んでいる。息子1は静かだ。おかしい。

息子、寝る

家の駐車場に車を止めて振り返ると息子1が寝てしまっている。痛くて疲れてしまったんだろう。可哀想に。ベビーカーなしで息子sを連れて駐車場から家の中まで移動するのは無理なので、妻に救援を頼む。ちょうど帰宅したところだった。よかった。

整形のスタッフから返信が来ていた。病院Aと病院Bを勧めてくれた。病院Aは職場に近接しているのがメリットだがwill be busyだそうだ。・・・やはり。当地留学中の友人Mの奥様がイレウスで受診した時、病棟にあがるまで6時間かかったと聞いている。

病院Bをweb検索すると、意外とご近所さんじゃないですか。病院Bかな。しかし、Urgent Care Clinicは20時までで閉まるようだ。駐車場から家のベッドへ移送された息子1はぐっすりと寝てしまっている。どうしよう。

寝てる息子の腕を再度観察する。学校で最初に見た時は曲がって見えたけれども、あの時は痛がって腕をまっすぐ伸ばして見せてくれなかったから曲がって見えたようだ。どうも曲がっては見えない。それでもほんのり腫れてはいるようだ。そして寝ているが触ると痛がる。うーん・・・起こしてまで受診は不要かな。明日かな。

念のため病院に電話をしてみる。
私:「息子が学校でこけて腕を痛がって動かさないんだ。痛みが続いたら受診させたいんだけど予約はいるのか?」
>病院受付のお兄さん「予約はうけつけてないんだ。今日は20時までだから気をつけてね。」
私:「わかった。ありがとう。明日の朝まで様子見るよ」
>病院受付のお兄さん「おっ、おぉ。それだけかい?」
私:「それだけっす。さんきゅー」
明らかに拍子抜けしてたけど仕方ない。さて寝るか。

父、気づく

夜少し起きたが腕は動かさない。お腹すいたというので少し食べさせて、ささっとシャワー浴びさせて、また寝かす。いい子すぎる。おかしい。夜は(親が気づくレベルの)夜泣きすることもなくぐっすり寝ていたようだ。親も。

翌朝になっても残念ながら痛みは良くなっていなかった。左腕を動かすことなくだらんとたらしている。機嫌は悪くない。これはやっぱり病院に連れて行かねばならんかな。Urgent Care Clinicは朝8時からだった。もう始まっている。

シーネ巻いてもらうかな?などと考えながら息子をみると何やら既視感を覚える。腕をだらんとたらしている。手背を前面にした回内位でたらしている。そういえば昨日も手のひら上にできなかったな(回外制限があった)。。。肘内障じゃね?

肘内障なんかでUrgent Care Clinicに子供を連れて行こうものなら整形外科医として大恥だ。いや、でも受傷機転が転倒なので骨折の可能性も否定はできない。そもそも肘より手首に近いところを痛がっていたじゃないか。

息子1をもう一度診察する。・・・あれ?肘周りの方が痛そう。むしろ橈骨頭(肘内障で脱臼するところ)に強い痛みを訴えている。これ肘内障やろ。

息子、泣く

肘内障がmost probableですと妻に告白すると、「やっぱり? 私もそうじゃないかなと思っていたけど整形外科医(僕のこと)のまえで言えなかった。」・・・言えよ。

肘内障だと思えてくると、すぐにでも整復したい。しかしきっと泣いて機嫌を損ねることを考えると、今食べている朝御飯がおわって落ち着いてからが良いだろう。ああ早く整復トライしたい。うずうず。

食事が終わって遊び始めようとする息子を呼び止める。遠巻きに見ている妻に協力を要請し息子を妻の膝に座らせる。さて本当に肘内障かな?整復できるかな?

おりゃあ、回外!・・・ならず。
おりゃあ、屈曲!・・・ならず。
おりゃあ、外反!・・・ならず。

やばい。息子はとうに泣き出しているのに戻らない。やはり違うのか?

もう一度だ。おりゃー
パツッ!!

はい。肘内障でした。治った治った。良かった良かった。

肘内障とは

読み方は「ちゅうないしょう」。wikipediaさんの説明を引用すると下記。

解剖学的に希薄な輪状靱帯から橈骨頭の成長が未熟な為逸脱した状態。亜脱臼。

肘内障:wikipediaより引用

就学前の幼児に多く、英名はpulled elbowと呼ばれる。その名の通り、典型的には腕を強く引っ張られた際に発症することが多い。レントゲンでは亜脱臼の判断は困難であり、整復動作が診断的治療となる。

整復音が触知され、しばらく様子を見て腕を使えるようであればまずは大丈夫。機嫌の戻ったちびっこに患側でバイバイをしてもらえると医療側は幸せな気持ちになる。後遺症はないが脱臼なので当然早期に整復した方が良いと言える。

なぜ見落としたか?

受傷機転が転倒だった

肘内障が転倒でも発生することはもちろん知っているし経験もある。手をついて骨幹部遠位が痛い様子で、かつ腫れてるような曲がっているような見た目に見えたために骨折じゃね?と思ってしまった。

好発年齢を過ぎていた

肘内障の好発年齢は2歳から5歳頃だ。息子1はそれより年長であり僕の持っている肘内障の患児イメージから離れてしまっている。息子1の年頃で初発の肘内障というのは思い当たる経験がない。

不意を突かれた

理由にならないがこれも事実。予診がとられて診察室に入ってくる患児をみるのと違い、息子1はいきなり手が痛いと言って患児に変身した。一方で父から整形外科医に変身しきる時間的・心理的余裕がなかった。

親心と経験が邪魔をした

肘内障かと思いきや上腕骨顆上骨折であったり、ちょっと腕腫れてるねと検査したら前腕骨折みつけたりの経験が、親心を触媒に冷静な判断を妨げた。オーバートリアージは許容していただきたい。

肘内障整復後の経過

ちょっとばかり苦労したが整復はうまくいった。ただ年長さんな息子1の輪状靭帯はすでに成熟してきているのか、いつもよりも甲高いパツッっという整復音と硬めの整復感が印象的だった。子供が泣き出すタイミングはいつも通りだ。

せっかく自分の息子が肘内障になったので経過が気になる。なぜなら肘内障は整復してしまったら治療終了なので、その後の経過を見る機会がないからだ。口伝通りに1時間もせずに普通に使って遊び始めていた。しかし橈骨頭の圧痛は数日間にわたって残っていた。24時間近くも整復せずに放置してしまったのも一因かもしれない。

世の整形外科医は、自分の子供に肘内障を起こさせまいと注意しながら育児(指導)をしている。まさか自分の息子の肘内障を整復する機会が訪れるとは思ってもいなかった。僕が腕を引っ張らなくても、今回のようにコケて肘内障を発症することはありうるのに。

いやはや、さっさと気づいて寝ている間に整復してあげれば良かった。反省だ。