「整形外科學」名称の由来

2017年9月12日

「整形の先生なの?鼻高くできる?しわとれる?」

一般の人に「医者です」というと当然のように「専門は?」と聞かれる。そして「整形外科です」と答えると美容外科と誤解を受けることがある。美容外科の露出が多いため、整形外科は美容整形にイメージまけしたのだろう。整形は軒を貸して母屋を取られた形だが、悔しがってもしょうがない。

整形外科は明治期の先人達が西洋医学を輸入したことに始まる。整形外科はドイツ語ではOrthopädische Chirurgie、フランス語ではChirurgie orthopédique、英語ではOrthopaedic Surgeryと表現される。Orthopadieは当初「矯正」と翻訳されていたこともあったが、東京帝国大学整形外科学講座初代教授の田代義徳によって整形外科という新語が生み出されて現在に至っている。

OrthopädieをみるとOrthoとpädieの2つの言葉からなっている。Orthoの意味は真っすぐで、pädieの意味は子どもだ。真っすぐな子ども?わけわからんとも思うが、もともと整形外科は子どもの変形を真っすぐにしてあげる医療だったのだろう。いまでは整形外科は高齢者真っ盛り。小児整形外科医は希少種となっており、なかなかお目にかかれない。いまや整形外科はorthopaedic surgeryではなくorthogeriatric surgeryだという声すらある。

田代は「矯正」は整形外科の1手法に過ぎず、整形外科はもっと幅広い学問ととらえた。そこでOrthoを翻訳するに「整」の字をあてた。「整」には矯正の意味が含まれており、働きの意味が多いことを選択の理由として上げている。問題はpädieだった。「子ども」と翻訳すると整形外科を表すことが出来ない。

あるフランス人がorthomorphieを提案していたことを知った田代は、morphieつまり「形」をためしに合わせてみて「整形」という言葉を創ってみたところ随分と語呂が良いではないか。新しい講座の名前は整形學講座にするか?しかし田代はここで満足しなかった。

整形學は新進の學科であり、観血的手術も開拓されはじめている。整形學は外科と不可分の関係にあると見抜いた田代は「整形」に「外科」の2文字を足して「整形外科」の名称を作り上げたそうな。この苦心の名翻訳に福澤翁もきっと感心するに違いない。

整形外科の有名雑誌にJournal of bone and joint surgery (JBJS)という雑誌がある。その影響もあってか整形外科を骨・関節外科と名乗るむきもあるようだ。私自身も整形外科ってなに?と聞かれたら「骨接ぎよ」や「足腰みるとこ」などと説明することがある。しかし日本整形外科の創始者たる田代義徳が整形外科の名前に込めた思いは実に大きい。頑張ろ。

何ヲカ整形外科ト云フ. 曰ク其發生ノ先天性ト後天性トヲ問ハズ原發性ト續發性トニ論ナク, 又其原因ノ如何ニ関セズ, 骨骼及関節ガ, 其正常ノ形状ト方向ヲ變ジ, 其生理的ノ運動ヲ誤レル場合ニ於テ, 之ヲ討究シテ, 其本態ヲ明ニシ, 之ヲ類別シテ其系統所属ヲ定メ, 之ガ予防及療法ヲ講ズル学科ヲ云フ.

田代義徳 整形外科ノ説 日本医事週報 616号, 1907年1月1日

参照:日本整形外科学会八十年史