海外学振に面接をへて採用されるまで〜前編

2018年9月27日

はじめに

日本学術振興会の海外特別研究員、通称「海外学振」の面接に行ってきました。海外学振への応募、面接決定、準備、当日の様子などについて自分の経験や業績などを含めて前編・後編にわけて振り返りたいと思います。

海外学振について

趣旨

海外学振とは日本学術振興会の海外特別研究員のことで、海外特別研究員制度は以下の趣旨で運用されています。

海外特別研究員制度は、我が国の学術の将来を担う国際的視野に富む有能な研究者を養成・確保するため、優れた若手研究者を海外に派遣し、特定の大学等研究機関において長期間研究に専念できるよう支援する制度です。

日本学術振興会HPより引用

支給額

支給額つまり給与・給料です。海外へ研究留学するには渡航費や生活費などのお金がかかります。お金の出所として以下の4つの選択肢が考えられます。

  1. 日本の所属先からの給与
  2. 留学先の研究室からの給与
  3. 自分で助成金を獲得する
  4. 自腹でまかなう

1.のように日本の所属先から給与が出るのは稀なケースです。2.のように希望する研究室から給与を出してもらえるのがベストでしょう。しかし基本的に最低賃金レベルの薄給です。希望する研究室から給与は出せないけれど、3.のように自分で助成金を獲得したら来て良いよと言われる場合があります。その場合には3.の獲得が必須です。また4.のように日本人の医者のなかには自腹で生活費をまかなう人もいます。医者ならではの留学手法でしょう。

一口に助成金といっても支給額が50万円のものから2年間で1000万円もらえるものまで様々なものがあります(助成金ゲットで家族もハッピー)。今回話題にする海外学振の支給経費(給与)は以下になります。そうです。一番支給額が大きいのが海外学振なのです。

1)往復航空費(日本国内の移動分は除く)
2)滞在費・研究活動費(年額約380万円〜520万円 450万円〜620万円
平成31年度募集分より大幅に増額されています!!

日本学術振興会海外特別研究員 募集要項より引用

応募資格

  • 身分:我が国の大学等学術研究機関に所属する常勤研究者、又は当該常勤研究者を志望する者
  • 学位:博士の学位を取得後5年未満の者。申請時においては、見込みでも良い。
  • 職歴:大学等研究機関の任期の定めの無い常勤研究職の職歴が過去通算して5年未満の者
  • 国籍:申請時において、日本国籍を持つ者、又は日本に永住を許可されている外国人

年齢制限がないのが海外学振の良いところです。若手研究者を支援するその他の助成金には概ね年齢制限があります。専門分野の臨床経験がある医師が大学院に進学して博士を取得する頃には30歳半ばになっています。若手研究者支援が目的なので年齢も審査対象になっていると思われますが、少なくとも門戸が開いているのはありがたいです。

デメリット

みんなが目指す海外学振にもデメリットが2つあります。1つめは自由に一時帰国できこと、2つめは「他からの資金援助」を受けてはならないことです。

まず1つめです。日本学術振興会の海外特別研究員事業は税金で運営されています。そのため海外特別研究員は研究専念義務があります。そのため原則として一時帰国ができません。仮に一時帰国が必要な場合は事前に承認申請が必要であり、支給経費を日割りで返納しなければなりません。

2つめです。海外特別研究員の遵守事項には下記の記載があります。

派遣期間中は、原則として国内外を問わず、他からのフェローシップ、給与等同種の資金援助、その他収入等(以下、「他からの資金援助」という。)を受給することはできません・・・

1.「他からの資金援助」を受ける場合は、海外特別研究員の研究専念義務を怠らず、かつ年間100万円程度以内とすること

つまり海外学振を受給してしまうと留学先の研究室からの給与はもらえないことになります。海外学振の支給額が研究先施設の最低賃金以下であった場合はどうするのでしょう? また海外学振とならんで有名な上原記念生命科学財団のフェローシップの場合は留学先の研究室から給与がもらえるため、場合によってはこちらのほうが総額が多いこともあり得ます(ただし上原フェローシップの期間は1年間)。

やや疑問の残る制限事項ですが、なるべく多くの若手研究者に機会を提供しようとすると仕方ないと考えています。同一人物に二つの資金援助が重なると、援助できる若手研究者の総数が減ってしまうからです。こっそりと二つの資金援助を受給していた人もいるようですが、インターネットで情報開示されるようになった現在は、そのような不正受給をしている人はいないでしょう。

採択率

研究留学を志望する多くの猛者たちが海外学振に応募して来ます。毎年各分野から総勢800名前後、我々の主戦場である医歯薬学分野には200名ほどの応募があります。全体の採択率20%前後であり、各分野概ね均等に割り振られています。医歯薬学分野の近年の採択率は以下です。

年度 H30 H29 H28 H27 H26 H25
申請者数 221 225 268 259 180 208
採用者数 56 54 55 51 47 56
採用率 25.3% 24.0% 20.5% 19.7% 26.1% 26.9%

意外と採用率が高いように思われるかもしれませんが相手は全国の海外留学を志望する猛者達です。東京大学の大学入試合格率が3割程度であることを考えても決して高いわけでは無いでしょう。しかし応募しないことには採用されません。前進あるのみです。

準備から採択(願望)までの流れ

募集年度の確認

平成31年4月以降に留学する人が平成30年に平成31年度採用分海外特別研究員募集に応募します。つまり平成30年4月から留学を志す人は平成29年の申請に応募する必要があるということです。1年以上先の留学の準備を学振は求めていることになります。ただし理由を記載すればすでに留学済みのひとも応募できますのでご安心ください。

募集要項公表

2月初めに募集要項が公表されます。基本的に前年踏襲ですので前年度のものを参考にしてなるべく早くに準備を始めましょう。募集要項に重大な変更があった場合は注意書きをしてくれるようです。例えば平成30年度の募集には表紙に下記の記載がありました。

「主な変更点」
4. 申請資格
人文学又は社会科学分野の満期退学者について申請不可に変更

・・・相変わらず日本は人文系に厳しいですね。

(以下は個人申請を行った私の経験からの記載です。大学などの研究機関に所属している機関申請者とは一部異なる可能性がありますのでご留意ください。)

電子申請システム登録

3月中旬にweb上の電子申請システムに登録すると申請書の書式がダウンロードできます。前述のように基本的に前年度踏襲なので先輩などから前もって申請書を入手しておくと気持ちが楽になるでしょう。人によってはむしろ焦るかもしれません。

申請書作成

審査領域

審査領域、分科、細目、専門分野と実に細かく分かれています。システムの案内に従って粛々と入力しましょう。迷った時は競合が少なそうな分野を選ぶと良いかも!

申請者情報等

氏名(登録名・戸籍名・ローマ字)、国籍、生年月日、大学院博士課程の情報、学歴、職歴、現在の所属機関、申請資格、海外特別研究員終了後の進路と入力項目は多岐に渡ります。また奨学金・フェローシップの有無、派遣希望機関、派遣国、受入研究機関での身分も入力します。

現在の所属機関が曲者です。自分が個人申請対象者であることを前もって確認しましょう。機関申請者とは、申請時点で「科学研究費補助金取扱規程(文部省告示)第2条に規定されている研究機関」に所属している申請者です。これが明示されていない。「科研費」「研究機関」でGoogle先生に質問すると、学術振興会のドメイン内にある機関番号一覧が案内されるので、参考になるかもしれません。

海外特別研究員終了後の進路としては、「日本国内の研究機関にて常勤研究者として活躍し、ノーベル賞獲得を通じて日本の発展と世界平和に貢献します。」と書いておきましょう。

指導者情報

現在の受入研究者、出身大学院の研究指導者、海外における受入研究者、評価書作成者を入力します。私は臨床に出ていたので現在の受入研究者は白紙。その他は適宜入力しました。

評価書作成者には、申請者の研究姿勢、専門知識、創造性、コミュ力、語学能力、リーダーシップそして研究の独創性などについてフリースタイルで記述するように求められるそうです。基本的には大学院在籍時の研究指導者にお願いすることになると思います。良好な人間関係を築いておきましょう。

語学能力

外国での研究活動を行うにあたり、相応の語学能力(英語であれば、TOEFL iBT 79点、TOEIC730点、英検準1級のいずれか程度)を有することを、「客観的に判断できる指標」を用いて示す必要があります。

・主な使用言語の語学検定試験結果(試験名称、取得年月)
・国際学会において、主な使用言語での発表経験の有無、回数
・主な使用言語での論文執筆経験の有無、数
・主な使用言語圏への留学経験の有無、内容
・主な使用言語の日常的な使用頻度
・研究室で日常的に使用している
・主な使用言語を用いてフィールドワークを行なっている
・主な使用言語を用いて共同研究を行なっている 等
・その他、客観的に相応の語学能力を有しており、外国での研究活動に支障がないことがわかる事例

ちなみに私は2011年頃に気まぐれで受けたTOEICが795点でしたが証明する手段がなく記載できませんでした。再受験しようにもTOEIC受験結果が学振申請に間に合わない事態に陥りました。しょうがないので学会発表や論文経験と、受入研究者と英語ですでに話がついてるよと書いてのりきりました。しかし「相応の語学能力の基準」はこれでいいんでしょうか? 私ほんと英会話ダメですよ。。。

海外特別研究院制度における支援の必要性

「過去に海外での研究経験を有する場合又はすでに海外で研究に従事している場合のみ記入。」とありました。私の場合は申請時には該当しませんが、結果発表時には海外で研究に従事しているという微妙な立場。とりあえず正直に理由と「支援を切望している」と書きました。

現在までの研究状況

白紙2ページにフリースタイルで現在までの研究状況を記載します。図表を用いても良いです。

・これまでの研究の背景、問題点、解決方策、研究目的、研究方法、特色と独創的な点について当該分野の重要文献をあげて記述してください
・これまでの研究経過及び得られた結果について整理し、上記と関連づけて説明してください。

共著論文も提示してよいので、一貫した研究活動を行なっていることをアピールし、海外留学でその研究が一層発展しそうな予感を感じさせるように記載しましょう。

派遣先における研究計画

研究目的・内容

1ページ半の記載です。やはり図表を含めて良いです。

・研究目的、方法、内容について記述してください。
・どのような計画で、何を、どこまで明らかにしようとするのかを、年次毎に(1年目、2年目)分けて具体的に記入してください

研究の特色・独創的な点

半ページでの記載。図表はダメかもしれません。

・先行研究等があれば、それらと比較して、本研究の特色、着眼点、独創的な点
・国内外の関連する研究の中で当該研究の位置づけ、意義
・本研究が完成したとき予想されるインパクト及び将来の見通し

外国で研究することの意義(派遣先機関・指導者の選定理由)

1ページに記載。

・申請者のこれまでの研究と派遣先機関(指導者)の研究との関連性
・国内外の他研究機関と派遣先機関とを比較し、派遣先で研究する必要性や意義

人権の保護及び法令等の遵守への対応

1/3ページほどの記載。個人情報取り扱いの配慮や生命倫理・安全対策について、法令等に基づく手続きが適正に行われているかを記載します。「IRBを通して研究を進めます」といったことを、しっかり書き込みましょう。

研究業績

約2ページにわたって記入できます。

申請者が中心的な役割を果たしたもののみ項目に区分して記載してください。業績が多くて記載しきれない場合は、主要なものを抜粋し、各項目の最後に「他◯報」などと記載してください。査読中・投稿中のものは除きます。

①学術雑誌等(紀要・論文集も含む)に発表した論文、著書
②学術雑誌等又は商業誌における解説、総説
③国際会議における発表
④国内学会・シンポジウム等における発表
⑤特許
⑥その他(受賞歴等)

筆頭・共著、和文・英文をとわず全部書きましょう。きっと全ての論文であなたが中心的な役割を果たしたはずです。遠慮はいりません。私が犯した失敗は、学会発表の記載のところで、共同演者に名前を連ねる発表を記載し忘れたことです。「他◯報」の数字が全く変わってきただろうにと悔やまれます。

参考までに私の申請した業績を以下に記載します。

①学術雑誌等:原著、短報、症例報告など全てひっくるめて、英文筆頭8報、英文共著9報、和文筆頭2報を詳細に記述。そして最後に「その他16報」と記載しました。その他のところを英文と和文で分けて記載しても良かったかもしれません。

②解説、総説:全4報を詳細に記述。

③国際会議の発表:1回(共同演者の回数をカウントしそこねました)

④国内学会の発表:詳細に書いたのが5回、末尾に「その他2回」と記載。(同上)

⑤特許:なし

⑥その他:

留意点

言い古されたことではありますが、他分野の研究者から見ても興味を持ってもらえるように記載することが大事なようです。専門外の知人にも意見を求めて修正していくことが必須だと言えます。整形外科医の私は内科医の友人にチェックしてもらいました。できれば友人などではなく経験豊富な研究者にチェックしてもらうのがベストでしょう。

電子申請完了

個人申請の私の場合だと5月の連休明けが締切でした。機関申請者は4月下旬が締切となることが多いようなので、その点は有利だったのかと感じています。繰り返しになりますが自分が機関申請者でないことを確認しておきましょう。私は土壇場で不安になりました。

結果発表

8月の上旬に結果が発表されます。「【日本学術振興会】海外特別研究員の選考結果の開示について」と題されたメールが届きます。昨年は8月4日の出来事でした。楽観的に生きている私は合格を疑っていませんでしたが、やはり緊張します。どうやらwebシステムにログインして結果を確認するようです。

結果は・・・つぼみ有り。面接対象者となりました。後編では面接本番の様子など詳述します。